【感想】窓の魚 西加奈子

書評

白いしるしに引き続き,西加奈子作品を読みました。
今回は窓の魚!
前回の白いしるしの感想は下のリンクからどうぞ!

あらすじ

あらすじ…の前に簡単に西加奈子さんのことを。
少し変わった経歴の方です。

西加奈子さんは1977年にインド・テヘランに生まれます。
そしてエジプトを経て,大阪で育っています。
国がインドとエジプトって!!
なかなか普通じゃない環境ですよね〜

インドは2歳まで。
エジプトは小1〜小5まで。

温泉宿で一夜を過ごす,2組の恋人たち。静かなナツ,優しいアキオ,可愛いハルナ,無関心なトウヤマ。
裸の体で,秘密の心を抱える彼らはそれぞれに深刻な欠落を隠し合っていた。決して交わることなく,お互いを求め合う4人。そして翌朝,宿には一体の死体が残される−恋という得体の知れない感情を,これまでにないほど奥深く,冷静な筆致でとらえた,新たな恋愛小説の臨界点。

窓の魚ー西加奈子

この作品では主に4人の登場人物がいてて,それぞれ季節にちなんだ名前をしています。

そして4つの章からなっていて,4人それぞれの視点からある女性の死体についてのことが書かれています。
なので,同じシーンが4人の視点で4回描かれます。

各章の順番に書いていきます。
内容,ネタバレしてます。

ナツ

アキオの彼女の女の子です。
少しぼーっとしたようなところのある子です。

記憶が行ったり来たりしているような,
人と話している時に他のことを考えているような。。

ナツ視点の旅行では,山の中の温泉地に行くのにクツを仕事用のものを履いてきてしまったり,

食事中にふとした一言でアキオを怒らせてしまったり,

その後の温泉で2時間以上もぼーっとしていてハルナが探しに来てくれたり。

そして,最後に身元不明の女性の死体について,別の宿泊客からの視点で語られます。

トウヤマ

トウヤマもつかみどころのない人です。
ハルナの彼氏です。

最初から衝撃なのですが,この旅行の費用はハルナが全て出しています。
週3でキャバクラで仕事をしているようですが,
服,くつ,カバンなども増え,そして今回の旅行費用。。
その出どころはトウヤマは知らないようです。

そしてトウヤマにも秘密があります。
それは「女」の存在。

トウヤマ視点の旅行では,ナツはイライラしているような女の子に見えていて,
食事中のナツのふとした一言もつっかかっているように見えている。

そしてそれを「とりなす」ハルナととらえている。

このシーンではトウヤマ視点ではナツとハルナは対極的に描かれています。

ナツに対しては「もっとイライラさせてやりたい」「困った顔を見たい」という欲求
ハルナに対しては「自分を守って欲しい」「自分は弱いのだ」という請求
それぞれにそんな気持ちを抱いています。

そして,食後に温泉から帰ってこないナツを探してきて欲しいとアキオがハルナに頼みにくるシーンでトウヤマ視点の話は終わります。

ラストは温泉宿の従業員が身元不明の死体について語ります。

ハルナ

ハルナはトウヤマの彼女。
今回の旅行を言い出した人物。

トウヤマの身辺の「女」に疑いを持っている。
「温泉に行ってきます」と書いたメモの上にわざわざトウヤマの服に付着していたハルナのものではない髪の毛を置いて様子を見たりします。

食事中のナツとアキオの件についても,その場にいたくないからと率先してビールやタバコを取りに行ったと描写されています。
少しトウヤマからみたハルナとは違っています。

食後,温泉から戻ると,財布が開いていることに気づきます。
ハルナは免許証の写真を見られたのではないかと危惧します。
(実際には「ふと思いつきで」開けたとトウヤマの章には描かれています。)

この章ではハルナのお金について母親から振り込まれていることが明らかになります。

そしてアキオに頼まれて,温泉にナツを迎えにいき,その戻り側に宿の女将さんとすれ違います。

この章の最後は,この女将さんから身元不明の遺体について語られます。

アキオ

アキオはナツの彼氏。

移動中の景色に感動し,ナツになんども「こんなところで死ねたらいいだろう」とか「一緒に死のうって言ったらどうする」などと自殺願望があるかのようなことを言っています。

食事中のナツからの言葉については,当初羞恥でいっぱいになっているものの,その後おどけたような回答をして,特に気にしている様子はない。

その食後の温泉の後,銀色の包みを取り出すアキオ。
彼はその中の粉末をナツの湯飲みに入れる。

その粉末はハルナから「幻覚剤」としてもらっていた。

ハルナが金銭的に余裕があるのは,母親からの仕送りだけではなく,アキオに薬を売っているからだった。

その後ハルナに温泉から戻ってこないナツを迎えに行ってもらい,薬を飲ませるアキオ。

その深夜に

誰かが庭へと降りる音が聞こえる。
そこでアキオは女と出会う。
その女は「トウヤマくんの友達?」とアキオに尋ねる。

その後いつの間にか姿を消す女。

「僕はいつまでもそこに立っていた。」と終わる。

感想

ナツの章を読んだ直後は,死体はナツなのではないかと思いました。
なんともぼーっとしたつかみどころのない女の子像だったので。

そして次にトウヤマの章あたりで,死体はアキオなのではないかと思いました。
と言うのも,アキオは病弱で性的不能者ということがわかるのですが,実は女性ではないかと感じる描写もありました。

しかし,アキオの章を読むと,おそらく死んだのはトウヤマの「女」ではないかと思います。

この作品にはナツ,トウヤマ,ハルナ,アキオの他に別の宿泊客,従業員,女将さん,トウヤマの「女」の8人が登場します。

彼らはそれぞれに秘密を抱えていることがあります。

ナツは昔の男。
トウヤマは「女」の存在と祖母への思い。
ハルナはアキオとの関係と母親へのコンプレックス。
アキオはナツの薬と昔飼っていた犬の死への憧れ。

ナツとアキオ,トウヤマとハルナそれぞれに好き合っているように見えて,非常に複雑な感情があります。
また女の子同士,男の子同士が仲良いかと言うとそれぞれにコンプレックスが刺激される相手。

アキオは病弱だった過去から,トウヤマへの羨みのような気持ちを持ち,
トウヤマは祖母への恋しさや消化しきれない思いをアキオに話したいと思う。

ハルナはナツのことを嫌いでありながら,女同士の話をしたいと願っている。
この願望は非常に複雑で,薬をアキオに渡してナツが正常でなくなっているのに話したい。

また,ナツの章で何度も昔の男が「タバコ」と共に出てくるのが,トウヤマなのかと思わせる。

4人それぞれに秘密があって,でもこの4人でないとダメな関係を築いている。
この作品は死体についてのミステリーというよりも,この4人の恋愛小説だというとわかりやすい。

それぞれの想いがあり,答えがあるものではないが,4人それぞれが想いあっているのが答えなのかなと。

友人と話していたのですが,男性作家は直接的な描写が多く,女性作家は抽象的な描写が多いよねと。

非常に女性らしい作品でした。

書評
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